コンスタンティン・ブランクーシ 無機物と生命との出会い

パリのポンピドゥ・センターの分館であるアトリエ・ブランクーシを訪れたことがある。建築家レンゾ・ピアノ設計の抽象的な空間の中に、20世紀の彫刻家ブランクーシの抽象的な形態の彫刻と、彼の再現されたアトリエが展示されている。ブランクーシはシンプルで抽象的な形態を特徴とする彫刻家である。(イサム・ノグチも一時彼のアトリエに身を寄せていたことがある。)だが、彼の作品にはその抽象的でシンプルな形態にもかかわらず、不思議と生命の力を感じさせる作品が多い。鋸、槌、彫刻刀などの数多くのリアルな工具が数多く並べられた彼のアトリエを見ると、彼の重量を感じさせない抽象的な形態が、飽くなき物質との格闘の果てに取り出されたものであるという事実を再認識させられる。

さて、ブランクーシの作品の遍歴を見ていると、具象的な作品が、抽象的な丸みを獲得していく過程を確認することができる。だが、そのことはむしろブランクーシの曲線を帯びた形態が、まさに生命の生み出す曲線であることを意味しているのだろう。一般的には有機物は具象的で、無機物は抽象的だと考えられがちではなかろうか。だが、抽象と幾何学は異なるものだ。幾何学的な直線が本質的に静的なものであるのに対し、抽象的な曲線は動的な純粋な力の波動を表現しうる。だが、そうした抽象性は有機体の中に力の流れとして潜在することはあってもそれが形態として顕在化(実体化)することはない。生命の持つ力の流れを無機物の中に見出すこと、それがブランクーシの形態の本質ではないだろうか。彫刻家の飽くなき「もの」との戦い、無機物との戦いによって達成された「無機物と生命との出会い」によって、ブランクーシの作品は他に類を見ない流体的な抽象形態を獲得したのである。

(最近あまりに忙しいので、昔の旅行でのメモをアップ...)